がん患者の増加
近年、医療の進歩や飼育環境の向上により、犬や猫も、昔と比べて長生きするようになりました。しかし、人と同じく動物も、高齢になるにつれてがんの発生率は高くなります。そのため、動物の医療においてもがん治療は急速に発展していますが、発展に比例するように、がんに罹患する動物の数は年々増加しています。
新しいがん治療
がんの治療は、「外科手術」、「化学療法」、「放射線療法」の三大療法がこれまで主流を占めてきました。しかし最近では、これに継ぐ第4の治療法として、がん治療特有の苦痛を伴わず普通の生活を送れるようなQOL(Quality of Life)の改善を高める、「免疫細胞療法」が世界中で研究され、臨床的な効果が得られる治療法になりました。
更にその他、「温熱療法」や「光線力学療法」、これら2つを取り入れた「光線力学温熱療法」なども実施されています。これらは、一つの治療法で腫瘍を治療するというよりは、他の治療法と組み合わせて行われています。
免疫細胞療法とは
動物には病気や怪我に対して自分で治そうとする免疫力(白血球のリンパ球)という自然治癒力が備わっており、体内にできたがん細胞や体の中に侵入した細菌やウイルスを攻撃して死滅させます。免疫細胞療法は、このような生まれつき備わっている免疫の力を活性化させることで、がんの発症や進行を抑える治療方法です。
がん免疫療法の3つの特徴
- 副作用がほとんどない
自分のからだにあるものを増殖して投与するので、拒絶反応などの副作用の心配がありません。したがって、どのような段階のがんであっても体の衰弱が激しくても長期にわたって使用できます。 - 延命効果、自覚症状(QOL)の改善がみられる
末期がんの段階では、貧血や痛みなどのつらい自覚症状が現れますが、免疫療法では、苦痛を和らげる作用があります。がんが体にあっても、食欲が戻ったりしてQOL(生活の質)の改善が期待できます。 - 他の療法との相乗効果、手術後の再発予防
化学療法等のさまざまな治療法と併用することで治療をあげることが期待できます。現在主にがん免疫療法では、がん自体を直接攻撃するDCワクチンという方法と、自己の免疫力を活性化させがんに対抗するリンパ球療法があります。
免疫細胞療法の種類
- 活性化自己リンパ球療法(CAT療法)
- アルファ・ベータ(αβ)T細胞療法
- ガンマ・デルタ(γδ)T細胞療法
- 樹状細胞療法(DC療法)
治療の流れ
本来は血液に含まれるリンパ球を体外で培養し、それを再び体内に戻してがん細胞を攻撃させる療法です。イヌ、ネコの血液(10〜12ml)からリンパ球を回収し、薬剤を加えてリンパ球(αβTリンパ球)の活性化・増殖を行います。その後、およそ1,000倍に増えたリンパ球を洗浄・回収し、点滴で体内に戻します。
細胞の安全性について
免疫細胞療法に利用する細胞は、隔離された専用の機器など、無菌的で安全な環境下において培養されます。細胞の安全性については、バクテリアや真菌などのコンタミネーション(汚染)に対して細心の注意を払っております。

当院に新しく設置された細胞培養室
その他の新しい治療法
他の治療法と組み合わせることにより、さらなる効果が期待できます。
温熱療法
腫瘍細胞は、正常細胞より熱に弱い性質をもちます。これを利用し、正常な細胞には作用しない程度の温熱を腫瘍領域にあてることで、腫瘍細胞のみを攻撃し壊死させることができる方法です。
光線力学療法
光が当たると活性酸素を発生させる物質を用います。活性酸素は、細胞にダメージを与える作用があります。この物質は、腫瘍細胞にとどまりやすいため、あるタイミングで光をあてることで腫瘍細胞のみを破壊するという方法です。
光線力学温熱療法
上記の二つを組み合わせたものです。腫瘍にある物質を注入し、レーザー光を当てることで、確実に腫瘍細胞のみを破壊しようという治療法です。この療法は、がん局所を攻撃するため、外科的に切除しきれない部位への併用や、全身的な抗がん剤の投与ができない場合、さらに活性化リンパ球療法の併用など、他の治療法との組み合わせが可能です。

口唇にできた悪性黒色腫

光線力学温熱療法
インフォームド・コンセント
イヌ、ネコの免疫細胞療法を受けられるにあたって、その治療方法、ならびに、副作用、費用などについて担当の獣医師から詳しく説明させて頂きます。当療法での治療を受けられるかどうかは、詳細な説明を受けた後、飼い主樣方が納得された上で、お決めください。